『すべて真夜中の恋人たち』三束がついた嘘って何?その意味を考えてみた
作家・川上未映子さんの著作『すべて真夜中の恋人たち』が、2026年11月13日に映画となって公開されます。
映画【すべて真夜中の恋人たち】は、引っ込み思案な主人公入江冬子を岸井ゆきのさん、相手役の三束を浅野忠信さんが演じ、誰もが抱える淋しさや孤独を炙り出すような大人の恋愛を描く物語です。
孤独の中で出会った心許せる男性、それが冬子にとっての三束なのですが、しかしこの三束は冬子にとある嘘をつきます。
そこで今回は、三束がついた嘘とは何なのか…その内容と意味について考察してみました。
Contents
小説『すべて真夜中の恋人たち』三束がついた嘘の意味を考える
すべて真夜中の恋人たち/川上未映子 #読了
「ひとりきりなんだと、わたしは思った」登場人物たちはみんな生き方に迷っているようでした。自分を正当化して嘘をついたり、人の生き方を引用して生きたり
そんな分からなくなってしまった日々のかけがえのない光の物語
⬇️ALTで自己解釈🙇♂️ https://t.co/aHaSgDCrNQ
— おしるこ (@4yR0heXz2h91325) September 29, 2026
小説『すべて真夜中の恋人たち』三束がついたのはどんな嘘?
冬子が思いを寄せる三束がついた嘘は、高校の物理教師だと偽ったものです。
本当の三束は、食品工場をリストラされた58歳の無職でした。
2人の出会いは、カルチャーセンターへの申し込みに緊張する冬子は飲酒して臨み、悪酔いしてたまたま通りがかった三束に吐きかけるという愚行が始まりです。
とんでもない事をしてしまったと落ち込む冬子は彼にお詫びをしたいと思うも、再び会えた時も酒を吞んでおり、眠りこけた結果置き引きに会うというトラブルを起こした結果、この時も三束が警察に届け出るなど助けてくれたのです。
普通であれば、最初に吐かれた時点でほとんどの人が冬子からは距離を取ろうとするでしょう。
悪気があってした事ではないとは思っても、二度目に会った時ですらトラブルを起こす人物など、親しくなりたいと思う人の方が少ないのではないかと思います。
しかし三束は、冬子のしでかす事を優しくフォローし、2人で会うようになってからも彼女の話をきちんと聞いてくれるのです。
冬子が毎年誕生日の真夜中に行く散歩についても、
という言葉に、今度は光の話をしましょう、と返し数少ない冬子の癒しを否定したりしません。
冬子にとって三束は、優しく大人の雰囲気で自分と向き合ってくれる人であり、そんな彼に惹かれないというのは無理があるでしょう。
そんな彼女に、冬子よりも年上である自分が無職だとは言い辛かった、という気持ちは分かる気がしますね。
小説『すべて真夜中の恋人たち』三束のついた嘘の意味とは?
三束がついた嘘には、見栄や恥が隠されていると考えて良いでしょう。
仕事をしていない男性というのは、たとえ『専業主夫です』と答えたって風当たりが強い現代。
58歳といえば年金受給開始前のため収入がほぼゼロで、健康で仕事をしていて当然と考えられる年代に無職と答える恥ずかしさは想像に難くありません。
しかも三束は、冬子に本を贈るなど元々思慮深い人物として描かれています。
ついた嘘も『営業職』など当たり障りない仕事ではなく、『高校の物理教師』としっかり職種を絞っている事や、冬子が語る冬の光を聞いて
と伝えるなど、あこがれの職業だったのかもしれないなと推察されるのです。
もしかしたら高校教師になりたかったのかもしれないという想像を搔き立てる三束の嘘には、どうしても『騙された!』という悲壮感が浮かんできません。
優しく聡明だからこそ、自身が無職である事を隠したかったという気持ち以上に、自分を慕ってくれる年下の女の子の気持ちに一点の曇りも残したくない、という風にも思えるのです。
小説『真夜中の恋人たち』では、三束のように会社に属していない人の行き場、居場所の無さについても触れているのではないか?と考察する読者の方もいらっしゃいました。
三束に限らず、退職したあと新しい仕事に就いていない男性の多くは、年金受給が始まった年になっても『居場所の無さ』という心淋しい現実に悩むようです。
仕事一筋で働いてきたからか、家にいても趣味のようなものも無い、それまでの人間関係はリセットされて新しい世手が入ってこない、そんな男性は自分自身のアイデンティティが崩れ落ちるような感覚を覚えるのだとか…。
なかには喪失感から居丈高になり行く先々でトラブルを起こすような人もいるようですが、自分はまだまだやれるんだ!という虚勢や見栄を張るのは何も珍しい事ではないのでしょう。
そう考えると、嘘は決して誉められたものではありませんが、三束が冬子に嘘をついた事は事実であっても、2人の関係が一歩深くなる直前で姿を消したのはある種の逃げであり、また思い遣りだったのかもしれません。
嘘は、本当のことを言うまで色んな事を誤魔化すために、更に嘘を重ねていく事になります。
冬子から、誕生日を一緒に過ごして欲しい、と言われ約束した三束の気持ちはどんなに揺れたことでしょうか。
このまま彼女との関係を深める事は、将来冬子を泣かせる可能性が高い事は三束にも分かっていたはずです。
三束もまた冬子に心惹かれていたからこそ、本当のことを告げるのではなく姿を消す、という選択をしたのかもしれない…。
そう考えると、2年の月日を擁したとはいえ自分がついた嘘を告白し、もう会いませんといった三束の決断を責める事も出来ないような気がします。
この手紙によって2人の関係はフラットなものになりました。
お酒に頼らないと行動できなくなってしまっていた冬子と、高校教師であると嘘をついた三束でしたが、2人がもし、また再び出会う事があったなら…そう考えてしまうような、そんな物語の終わりを見た気がします。
映画【すべて真夜中の恋人たち】のキャストとスタッフまとめ
映画『すべて真夜中の恋人たち』11月13日公開
──なぜ、望んでしまったんだろう第79回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、海外からも賞賛を浴びた話題作
出演:#岸井ゆきの #浅野忠信 #森田望智 #深川麻衣
上映劇場:フォーラム福島
#すべて真夜中の恋人たち https://t.co/krHuXGiN7r— フォーラムシネマネットワーク【公式】 (@FORUM_CINEMANET) October 14, 2026
映画【すべて真夜中の恋人たち】のキャスト・スタッフ紹介
主人公の入江冬子を演じる岸井ゆきのさんは、2020年の日本アカデミー賞にて映画【愛がなんだ】で新人俳優賞を受賞されると、一気にスターダムに上ったような印象がある若手実力派女優さんです。
その2年後には、映画【ケイコ目を澄ませて】にて同賞の最優秀主演女優賞を受賞されていますので、彼女の演技がどれだけ多くの観客の心を響かせているのかが分かりますね。
相手役の三束にキャスティングされた浅野忠信さんについては、原作ファンから
というような声が聞かれました。
昨今では大ヒットドラマ『SHOGUN 将軍』への出演でアメリカのエミー賞にて助演男優賞を受賞するなど、これまで以上に活躍の幅を広げていますね。
主人公2人の恋の始まり、その周囲にいる人物として、15年ぶりの再会を果たす早川典子に深川麻衣さん、冬子とは仕事仲間以上の友人関係を築きたいと思っている石川聖には森田望智さんがキャスティングされています。
お二人とも、様々な作品で印象を残すバイプレーヤーとしてよく拝見する女優さんですが、どちらのキャラも冬子を深く傷つける存在として出てきますので、その辺りの関係性の表現が楽しみですね。
監督は岨手由貴子さん。
これまで何作も映画を作って来られていますが、いわゆる大衆映画とは一線を画す作品が多く、岨手由貴子という名前を聞いて彼女が担当されたドラマ『天狗の台所』や『ヒヤマケンタロウの妊娠』での脚本家としての印象が強い方が多いかもしれませんね。
今回の映画【すべて真夜中の恋人たち】は実に6年ぶりとなる監督作品ですが、森田望智さんが
と仰ったように新作が待たれていた監督でもあります。
女性作家が書いた女性主人公の作品を女性が監督した映画【すべて真夜中の恋人たち】。
女性ならではの目線で作り込まれた【すべて真夜中の恋人たち】を映画館で観られる日が待ち遠しいですね!
まとめ
2026年の日本映画は女性監督の年。岨手由貴子監督『#すべて真夜中の恋人たち』を観てさらにそれを確信するに至った。ここまで周囲から埋もれた女性が主人公の映画がこれまでにあっただろうか? 岸井ゆきの、浅野忠信のスター・オーラを完全に消した演技。16ミリ撮影、松坂桃李の声。語ればキリがない https://t.co/0IbBIfjc1Q
— ラムの大通り (@durhum2) October 14, 2026
今回は、2026年11月13日公開の映画【すべて真夜中の恋人たち】について、主人公・入江冬子が心惹かれる男性・三束がついた嘘と、その嘘が意味するところについて調べてみました。
三束が冬子についた嘘は、自分の職業を偽るものです。
本当は食品工場をリストラされた無職ですが、三束が口にしたのは『高校の物理教師をしている』というものでした。
この嘘には、三束の見栄や恥の隠ぺい、または憧れも見え隠れしているように感じます。
20歳も年下の冬子に自分が無職であると伝えるのは、三束でなくとも躊躇し、嘘をつきたくなるのも無理はないでしょう。
しかし、ただ会って話をするだけの関係から一歩前進し男女の仲に変わろうとする直前、三束は冬子の前から消えました。
それは、嘘をついたまま冬子との関係を深めるわけにはいかないという誠実さと、自分が無職なのに高校教師だとついた嘘を告白する勇気の無さから出た行動だったのでしょう。
約束の日から2年後に届いた三束からの手紙には、嘘をついていた事の謝罪と、もう会わないという事が書かれていました。
その手紙に三束の住所はなく、返事も出せない状況になった冬子を想えば、中途半端な事をする男だな、と思われる方もいるかもしれません。
それでも、これで一度彼らの関係がフラットに戻ったと考えれば、もしも未来で冬子と三束が再会したら、その時はまた新しい関係を築く事も出来るかもしれない、そんな可能性を残す最後のようにも感じますね。
映画【すべて真夜中の恋人たち】では、ラストに明確な答えを示すのか、もしくは余韻で観る者に結末を委ねるのか…演出も含めて2026年11月13日の公開が楽しみですね!





